新参たち① 『北から来た生真面目』

イェニス：さーて今日も辻ヒールすっかな。
　　　　　最近の俺様は本当がんばってんなー。自分で自分を褒めたいくらいだぜ。
　　　　　さーて俺様にヒールされたいヤツはっと･･･････

白い軍服の青年：･･･････････････････････。


















イェニス：うおっ！？　なんだなんだ！？
　　　　　　ケガ人か！？　おい貴様！　大丈夫か！　ケガか！？　大怪我か！？
　　　　　　もしケガならこの巡り合わせは幸運だ！
　　　　　　この俺様が貴様のケガを治して――――




白い軍服の青年：････････････腹が･･････････････




イェニス：やる――――腹？













白い軍服の青年：減って･････････････････････
　　　　　　　　　　　何か････････････････食べ物･････････････････････





イェニス：･･････････････････････････････。












＊＊＊

















マスター：･･････このご時世に生き倒れとはねえ。




白い軍服の青年：大変ご迷惑をおかけいたしました！




マスター：お気になさらず。腹が減ったならいつでもご来店を。












白い軍服の青年：はい！　非常においしい食事でした！　ありがとうございました。
　　　　　　　　　　　ウァテスのきみも、ありがとう。











イェニス：ったく、なんで俺様が汗水流して貴様をここまで運んでやらにゃならんのだ。




マスター：でも放っておかないんだから、お前もいい子だよ。




イェニス：当たり前だろうが。俺様は善人だぞ。












ビケア：（笑）




イェニス：なんか文句あんのか！




ビケア：別にねーよ（笑）











マスター：ところで兄さん、格好を見る限り軍人さんだな。










白い軍服の青年：はい。北軍所属のグラディオラスといいます。




マスター：なんだって軍人さんが一人行き倒れてるんだ？




グラディオラス：はあ･･････その、無期限休暇を･･･････




マスター：はあ？




ビケア：はあ？




イェニス：はあ？





グラディオラス：･･････････････････軍から、無期限休暇を貰いまして････････





マスター：･･････不景気だからねえ。





ビケア：お兄さんいかにも使えなさそうだものねえ。




イェニス：なんだ解雇されたのか。だからあんなところで行き倒れていたわけだ。











グラディオラス：･･･････････････････････。





マスター：二人とももうちょっと手加減してやんなさい。




ビケア：ビケア本当のこと言っただけだもーん。




イェニス：解雇されたのに軍服着て北軍所属を名乗るのって詐欺じゃねえか？











グラディオラス：い、いや、まだ軍から除名はされてない、はず、なんだ！
　　　　　　　　　解雇だとは言われてないし･････ただしばらく休暇をだな･･････






ビケア：はっきり解雇と言わない上司の優しさじゃん。





グラディオラス:････････やっぱりそうなのかなあ････････





イェニス：間違いねえだろ････････












グラディオラス：はあ･･･････行くあてもないし、かといって食っていけるほどの技能が
　　　　　　　　　何かあるわけでもないし･･････俺はこの先どうやって生きていけば･･････････












マスター：打ちひしがれてるところ悪いんだけど、食事代は払ってくれよな。














ビケア：マスターが一番手加減ないじゃん。




マスター：こっちも商売だしなあ。











グラディオラス：申し訳ないんですが、あまり持ち合わせがなくて･･･････





マスター：ほほう。食い逃げか？





グラディオラス：いやまさか！　そんな真似は断じてしません！





マスター：でも現実問題ねえもんはねえんだろ？　そして今後も収入の予定は無いと。













イェニス：････････その辺で許してやれよ。





マスター：ああうん、いや悪気はなかったんだが。すみませんね。





グラディオラス：はあ･････いえ･･･････お気になさらず･･･････事実ですし･････
　　　　　　　　　それにご迷惑をかけてるのはこちらですし･･･････











ビケア：喫茶店の床の掃除でもしてもらったら。あと買い物。





グラディオラス：えっ？





ビケア：あたし汗かくから掃除したくないしー。重いから買い物も嫌だしー。











マスター：ははーん。確かに客が多いときは俺も忙しいしな。
　　　　　　　短期で雇って食った分働いてもらうってことか。





イェニス：そういや行くアテもないとか言ってたな。





グラディオラス：は、た、確かにそうですが、そうなってはご迷惑が―――
　　










マスター：でも俺男これ以上雇いたくねえ。












グラディオラス：･･･････････なんか･･･････すみません････････。





マスター：ああいや、別に絶対雇わねえってことではないですよ。
　　　　　　なんにせよ、こちらとしても食ってもらった分は何かしらで返してもらわないと困りますし。
　　　　　　ともかく、今日食った分は働いて返してもらうということでいいですか？
　　　　　　ついでにその分は試用期間ということにしましょう。
　　　　　　働きぶり次第では、正式にバイトとして雇わせていただきますよ。





グラディオラス：ほ、本当ですか！？　いえ、願ってもいないことです。
　　　　　　　　　尽力しますのでよろしくお願いします！





ビケア：大丈夫～？　やる気が空回りしそうなタイプに見えるわあ。












グラディオラス：･････････････････････････････。





マスター：ビケア、一時的かもしれないとはいえ同僚になるんだ。優しくしてやんなさい。











ビケア：は～い。ビケア、パシリが増えるのは大歓迎☆











グラディオラス：ぱ、パシ････！　い、いや、尽力させていただきます！
















イェニス：･･････前途多難そうだな。ま、俺様には関係ないがね。